この裁判は、森文義さん(漁民・市民ネット代表)が原告となり、国と長崎県を被告として起こしたものです。正式の名称は「諫早干拓事業同意・漁業権放棄等基本契約無効確認請求事件」といいます。
昭和62年3月19日、諫早湾内12漁協の組合員と国の委託を受けた長崎県知事との間で、諫早干拓事業に同意し、漁業権を放棄するとともに、漁業補償(12漁協全体で総額243億5000万円)を行うとの基本契約が結ばれました。森文義さんは、その漁協の一つである小長井町漁協の一組合員として、また当時小長井町漁協の組合長であったことから同漁協の組合員全員の代理人として、この基本契約に調印したのです。この裁判は、この基本契約が法律的にみて無効であることの確認を求めるものです。
九州農政局は、この事業実施にあたり、いわゆる環境アセスを行いました。またそれとは別に、昭和60年10月「諫早干拓事業計画に伴う漁業影響調査検討委員会」なるものを設置して、漁業被害の予測をたてています。それらによれば、諫早湾内の影響はたいしたことなく、有明海全体についていえば全く影響なしといっているのです。それ故に、一貫して反対運動を続けてきた漁業者は、しぶしぶ同意したのです。
しかし、農政局の予測は不幸にも、ものの見事にはずれました。平成3年を境に諫早湾内のタイラギは全滅し、9年連続の休漁を余儀なくされている状態です。アサリも程度の差こそあれ、同じようなものです。
こういう場合に、農政局や長崎県の話を信じた漁民の側を救う道はないのでしょうか。法律といえども人間の常識を超えるものではありません。当然救う方法はあります。それが民法の「要素の錯誤に基く法律行為は無効」という理論なのです。たいした漁業被害は生じないと思ってこの基本契約を結んだのに、想定していない大被害が生じたということになれば、「要素の錯誤があった」ということで無効になるのです。
諫早干拓事業の出発点となったこの基本契約が法律上無効ということになれば、諫早干拓事業は理屈のうえで振り出しに戻ることになります。そういう意味でも非常に重要な裁判ということになります。
そればかりではありません。森文義さんは、「諫早湾内で起きた悲劇を有明海全体に広げてはならない」ということを繰り返し言っています。
ところが、有明海全域で大変な漁業被害が生じています。やはりタイラギ漁が駄目になり、竹崎ガニ、有明ガニとして評判の高かったワタリガニ漁も大きな打撃を受けています。そして、昨年あたりからノリ被害が深刻になってきました。
そういう意味で諫早湾内で起きた悲劇を有明海全域に広げないとすると、森さんの起こしたこの裁判にまず勝訴することがとても大切なことになってきます。諫早湾の悲劇を有明海全域に広げない、逆にいうと諫早湾を救うことによって有明海全体を救う、という大きな闘いに勝利する突破口になるのです。
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